流行っているということで映画『鬼滅の刃』を観てきた。ただ、「キャラクターわからないと辛い」という話は周囲から事前に聞いていたので、TV アニメで予習していった。
映像の完成度は高いなとは思ったが、「号泣する」みたいなところまではいかなかった。
その後、コミックで復習。
つまり、
アニメ→映画→原作漫画
の順で観賞したことになる。
その視点で言うと、「ここまでの映画化とアニメ化は、原作コミックを脚本のように扱っている」という印象を持った。
原作漫画は設定もよく考えられていてテンポもいいのだが、(前半は)それ自体としてはもの凄く魅力的かというとそんなこともない気がした。特に前半はどこかで誰かが言っていたが「声優とアニメーターに助けられている」感がある。原作は説明をセリフに頼っている部分が多いし、バトルシーンもなんかすっきりとしていない。
映画もそういえばそんな感じで、「乗客200人を助けた」という割にその乗客が全然描かれていなかったりする。普通の(パニック)映画的な表現からすると奇妙なんだが、これは原作がそうだからだろう。「脚本のように使っている」と言ったのはそういう意味だ。
原作を忠実になぞった上で、アニメ的な表現を足していく、みたいなアプローチで終始一貫している。で、この足したアニメ的表現が上手いんだな。
この作品に宮崎作品や新海作品のような「作家性」を誰もそれほどは望んでいないと思うので、これはこれでいいんではなかろうか。よくわかっているストーリーに小慣れたアニメ的表現を足して盛り上げ、幅広い年齢層に受け入れられる作品として成立させる。うまくいっていると思う。
ただ、このコンテンツが空恐ろしいのは、漫画原作は後半(具体的には主人公たちが無限城に落とされてから)になってから文句なしで面白くなってくる点だ。セリフ回しは洗練され、バトルシーンもメリハリがついて何やってるか明快に伝わってくる。物語的にもここで継国縁一とそのエピソードを丁寧に描写したことによって、伏線が次々に無理なく回収されていき、単なる敵役と思われていた鬼側のキャラに深みが加わっている。
無限列車編の方法論をそのまま踏襲しても、あと映画2、3本作れそうだし、あのクオリティが維持できたならもっと大化けしそうな気がした。
猪股弘明
医師(精神科医)