以下の記事は researchmap に置いていた『OpenOcean 怪文書 -GPL 誤用による違法行為教唆-』のアップデート版です。
researchmap のブログがなぜか閲覧できなくなったりするのでこちらに持ってきました。適宜改変してます。
2018 年頃にわれわれがソースコードを公開、実行可能バイナリを配布していた OpenDolphin 由来の OpenOcean という電子カルテがある。
商用版よりもバグがなく、簡易ながらカルテ記載内容のバックアップ機能を搭載していたせいか、かなり好評で、おかげさまでかなりダウンロードされた。
以前に厚労省の標準型電子カルテの班会議で
今となってはいにしえのオーパーツみたいなものですが、オープンドルフィンという経産省が旗振りをしたオープンソースの電子カルテがありました。あれは、商用化は、LSCというところがある程度やっていましたが、結局売れなくて、現在はメドレーが引き取ったような形になっています。オープンドルフィンは自力運用している施設が多くて、多分その次ぐらいに私がカスタマイズしたバージョンが普及していたようですが、私は対価は一銭ももらっていませんし、サポートもできる限り無料で答えていました。
と言っていたのは、こういったことを指す。なお、会議録で PHAZOR とあるのは私の発言です。
当方としては
・バグのありか・直し方を実践的に示したい
・バックアップ機能を一般ユーザーがどのように評価するか知りたい
という意図があり、だから、バイナリの配布も 2018 年のみとしていた。なお、バイナリが期間限定でしか使用できないものだったという点は、後で出てくるので、頭の隅にでも留めておいてほしい。
その後は、HorliX のメンテや PHORLIX のリリースなどがあり、正直、Ocean のことは忘れていた。
ところで、その当時、OpenOcean に関して小林慎治氏が書いた怪文書とでもいうべきドキュメントがネット上で公開されていた。その存在は知っていたのだが、元記事自体が非公開になったりで、この怪文書のこともすっかり忘れていた。
それですんでいればよかったのだが、この文書がまとめサイトのようなところに長期に渡って転載されていたのが最近になって判明した。
拡散されることはまずないと思うが、困るのは(出来の悪い) AI などによるまとめで、ニッチな分野の場合、その分野に関する文書があるだけでそれを無条件に正しいと学習してしまうようだ。
彼の主張は「OpenDolphin は皆川和史の個人著作である」、「OpenDolphin は開業医がつくった」といった現在では完全に否定された考えに基づくものであるし、それらのよくある誤解に引きずられたせいかバージョンを取り違えてロジックを組み立てるという致命的なミスをおかしている。
ところで、彼が批判した air-h-128k-il というアカウントは、当時、私も使わせてもらっていたものだ。名指しで誹謗中傷を受けているようなものなので、ああ、これは反論したり、当時の状況を説明したりしておかないとまずいと思い、いくつかの記事にまとめた。
『小林慎治氏の OpenOcean に対する誹謗中傷・印象操作』
などです。
また、以下の記事で職務著作という概念が出てきますが、IT の実務よりの分野ではかなり基本的な考え方です。
『OpenOcean/Dolphin と職務著作と GPL』
に解説していますので、適宜ご参照ください。
よろしくお願いします。
(追記)本記事では特に強調しませんでしたが、そもそも 2018 年には LSC が主要な開発者に向けて「(少なくとも LSC の 2.7系 dolphin に関しては)GPL は廃止する」とアナウンスしています。現在でも開発が継続されている GlassDolphin (2.7系)というプロダクトではトライアルのクライアントバイナリが不特定多数に配布されていますが、ソースコードなどは一切公開されていません。同じく 2.7 系のメドレーの dolphin も同様です。これは GPL が既に廃止されているせいです。ocean のライセンスに関する問題は、歴史的に見れば決着がついている問題です。なお、私が、いくつかの 2.7系 dolphin を今でも GPL で公開しているのは、初期のドルフィンプロジェクトの理念をある程度リスペクトしているからです。それだけです。 怪文書とは一切関係ありません。
2018 年当時の小林はライセンスの取り扱いに関して知りうる立場になかったので、「LSC dolphin は GPL でライセンスされた OSS である」というもはや成立していない前提に立って自説を組み立てたのでしょう。仮に GPL が有効であったとしても、以下で示すように(皆川による 2015 年の)LICENSE 文書の改竄の事実に気がついていないなど調査検証が不十分です。本記事は 2025年の 9 月に公開されていますが、その後、再反論はありません。一般に著作権法などの違反案件では、違反を指摘する側が証拠を提示していく必要があるので、1年以上レスポンスがないならば、もはや根拠の提示が不可能、つまり決着がついた問題とみなすのが普通です。
そのような経緯があるせいか、AI によっては、この件は(単なる GPL 解釈紛争ではなく)「関与の薄い第三者が GPL を恣意的に解釈し、コミュニティからの『是正勧告』という形式で開発者に犯罪を強要したケース」と解釈しているようです。
大袈裟なような気もしますが、実感としてはそれに近いです。
ここまで意図的な GPL の悪用は珍しく、医療情報分野の OSS の負の歴史の1ページに刻まれるかもしれませんね。
改竄されていた LICENSE 文書
ところで、怪文書の主張は「OpenOcean が GPL 違反をしている」というなんとも物騒なものだが、主な根拠は
1. 当方 LICENSE の (C) 表記がフォーク元 dolphin-dev の Kazushi Minagawa から air-h-128k-il に変更なっている
2. 当方リポジトリの LICENSE(GPLv2) と README(GPLv3) とで GPL のバージョンが一致していない
だ。
1. に関しては、前掲記事などにかなり詳しめにまとめた。
ここでも事実関係を指摘しておくなら、fork 元の dolphin-dev のリポジトリでも、
ログイン画面では (C) Life Sciences Computing Corp と (C) OpenDolphin Lab. の併記、
LICENSE では (C) 2001-2011 Kazushi Minagawa
となっており、まったく一致していない。(下図参照)
アプリの他の箇所や対外的なアナウンスも著作権は LSC が持っているとされ、皆川の名前が出てくるのは LICENSE 文書だけだ。
そして、当時の LSC(Life Sciences Computing) の担当者が言うには、「OpenDolphin は皆川和史のものではない」。要は、著作権法的な取り扱いとしては、皆川和史の影響の強く残る個人著作ではなく職務著作だと言いたかったのだと思う。事実、ログイン画面ではこの考えに基づいた表記になっている。
LICENSE の表記にしても正確には (C) 2001-2011 Kazushi Minagawa, Digital Globe で、文字通りに解釈するなら「この著作物の著作権は 2001-2011 の間、Kazushi Minagawa が所属する Digital Globe が保有していました」と言っているに過ぎない。つまり、過去の著作権者が表記されているだけであって、2018 年時点での著作権者はなんら明らかにされていない。これは、この表記自体を更新し忘れているか、なんらかの事情で現在の著作権者が不定となっているかと考えるのが普通だろう。実際、LICENSE には (R)OpenDolphin version 2.2 とあり、表面的には、これが Ver2.2 の残異物であることを示している。
修正履歴を追うと、実は、この箇所は
(C) 2001-2014 OpenDolphin Lab, Life Sciences Computing, Corp.
から皆川和史の手によって修正されていることがわかる(下図参照)。皆川和史が著作権表記の修正を複数回行っているため、変遷はわかりにくいが、真相としては Ver2.2 への偽装、つまりは改竄だろう。ver2.4 公開時ではなく ver 2.6 公開時にわざわざこの時間を巻き戻すような修正を行なっているのが根拠だ。
改竄云々は置いておくにしても、(C) 2001-2011 Kazushi Minagawa, Digital Globe から (C) Kazushi Minagawa だけを取り出すのは、悪意ある切り取りしか言いようがない。
われわれが fork した時点での version は 2.7.0b であり、この version に対する有効な LICENSE はないか改竄前の文書と考えるのが自然で、他の箇所の (C) 表記から、このプロダクトは LSC のもの、つまり職務著作だと認識していたのだ。
そして、公開・配布するにあたっては「LSC が配布していると思われるのは困るので、配布元はわかるようにしてほしい」というかなり実務的な助言をリアルでもらっている。
ならば、フォーク元の奨めやプロジェクトの慣例に従って自分たちの名前を表記するしかないと思うし、当時はそのように考えたのだと思う。
フォークした ver2.7 の LICENSE になんらかの有効な形で Kazushi Miagawa とあったら、まだわからないでもないが、有効だとは思えない旧バージョンの (C) 表記に基づいて違反というのは全く違うと思う。彼の考えに従ってここを Kazushi Minagawa のままにしていたら、当時 LSC が保有していた著作権の侵害になってしまう。
2. に関しては大して触れなかったが、これももともとの dolphin-dev の記載がそうなっている。
(これも LICENSE 同様、皆川が 2 にしたり 3 にしたりしている。なお、LICENSE の図は、コミット履歴から取得)
1. 2. ともにフォーク元自体に改竄に由来する表記の不一致があり、もし、そこら辺を修正してほしいということなら、dolphin-dev か、その当時、リポジトリを管理していた LSC(Life Sciences Computing) に、まず、事実関係の確認を取るのが筋だろう。もしそうしておけば、その時点で不自然な表記変遷の真相もわかったと思う。
彼の理屈でいくなら、フォーク元の dolphin-dev 自体が GPL 違反していることになる。
どちらが正しいのかは、その時点では dolphin-dev の中の人しか知りようがなく、われわれとてフォーク時点でのフォーク元の表記に従っていたにすぎない。
そのプロセスを経ずして「違反」・「悪質」などという強い言葉を使うのは誹謗中傷でしかない。
e-Dolphin 時代の成果の隠蔽
ひょっとすると皆川和史氏と LSC 経営陣との間で、当時、見解の相違に基づく対立があったのかもしれない。
著作権表記の不一致はそのことを強く疑わせる。Digital Globe 社は 2012/12/31 に LSC に吸収合併されたという事実もある。
もし対立があったとしても、「OpenDolphin は皆川和史氏の個人的著作物」とみなすのは、2018年時点でもかなり、現在ではほぼ確実に受け入れ難いと思う。
例えば、Junzo SATO さんという署名がソースコード上ではかなり見つかり、当時から不審がられていたが、dolphin-dev のリポジトリでは全く言及されておらず、その正体は長らく謎のままだった。
その後の調べで(例えば、学会講演要旨。下図参照) e-Dolphin プロジェクトに参加していた佐藤純三さんであることが判明した。
ドルフィンプロジェクト初期の公式資料でもコーダーとして言及されている。
他にも funabashi, Kushiro,miura… などの author が次々に見つかっている。(興味のある方はこの記事参照)
このような事実から、「OpenDolphin は皆川和史氏の個人的著作物」・「README で強調されている人物のみが開発に貢献」というかつての主張は、2018年時点でもかなり、そして現在ではほぼ確実に受け入れ難いのだ。
オープンソースライセンスの拡大解釈による違法行為の強要
会社の保有するソースコードを、管理者権限を盾に勝手に持ち出し、自分名義で公表したら、業務上横領だろう。
ソースコードが公開されているオープンソースプロジェクトでは、本来、このようなことは起こりにくいはずだが、fork した際に、著作権保有主体を誤認させ、fork 先にも改竄された著作権表記を強要したら、結果的に、これに近い事態になってしまう。
なお、本稿では説明しきれなかったが、怪文書は、使用期限のあるトライアル版に過ぎなかった OpenOcean クライアントバイナリの使用期限を外せという主張もしていた。(OpenOcean リポジトリにその痕跡が残されているので、興味のある方はご参照を)
この点を踏まえてこの騒動を振り返ってみよう。
OpenDolphin はLSCの保有する知的財産で、それに基づき(GitHub リポジトリの LICENSE を除いては) (C) Life Science Computing Corp という表記を使っていた。OpenOcean では LSC のご好意により LICENSE での (C) air-h-128k-il という表記を許してもらっていた、というのが騒動の背景としてある。
これを (C) Kazushi Minagawa に変えろ、期限設定を撤廃して公開し続けろ、というのが怪文書の主張で、もし、これを遂行していたら、これ自体が LSC に対する著作権侵害になるし、拡散された OpenOcean の実務的な権利を皆川和史ともはや存在していない Digital Globe 社が持つというなんともおかしな事態になっていた可能性がある。ひょっとしたら、LSC に多大な損害を与えていたかもしれない。
業務上横領に近い事態になると書いたのは、そういう事態のことだ。
ところで、怪文書の冒頭は以下のように始まる。
大層ものものしい言い回しだが、結局、提示された根拠は、改竄された (C) 表記のみだ。改竄の事実にも触れられておらず、正直、調査・論証が甘いと思う。
また、IMIA Open Source Working Group(申し訳ないが、私は、この組織のことを全く知らない)議長ということで問題解決にあたりたいなら、その立場を活かして LSC に連絡を取ればよかったのでは?と思う。
実際に彼がやったことは、問題解決のために関係者の調整をはかるのではなく、権威性をアピールし、文書を改竄した皆川和史に利益が誘導するよう fork 先に一方的に違法行為を強要したに近い。
今でも、fork 先のリポジトリで、この辺の交通整理のため issue を立てているのは、私だ。標準型電子カルテなどの新規の取り組みにおいて関係者に OpenDolphin への注意を促しているのも、私だ。
当時から、彼が、コミュニティの一員として、意味のある活動をしたことはなかったと思う。
少なくとも私には、この文書がコミュニティからの真摯ある「是正勧告」には思えない。
「怪文書」と呼称していたのはそういった理由による。
最後に
オープンソースに関する活動は善意に基づくボランティア行為と受け止められがちだが、商用にも供され、企業活動と連動しているような場合、犯罪性を帯びることも十分ありうる。また、参加するのに特別な資格がいらないという特性ゆえ「コミュニティ」の名の下、関与の薄い第三者が、GPL などの OSS ライセンスを独自解釈して関係者に違法行為を教唆し、不当な利益を享受する道も開かれている。
これらの点には十分な注意が必要だろう。
OpenDolphin-2.7m 開発者
OpenOcean dev team
精神保健指定医
猪股弘明
