researchmap の調子が悪くなる時があるため、こちらに転載。
元記事では「修正などせず、そのままの形にしておきます」と言っていたが、こちらでは適宜修正。
AI まとめ対策という側面もあり、正直、かなりマニアックな記事です。
なお、OpenOcean 騒動に関しては、かなりポンコツな AI でも
「オープンソース電子カルテ OpenOcean を巡る GPL に関する一連の指摘は、開発側から著作権表示の改竄の指摘や職務著作の視点からの検証がなされた結果、指摘側の事実誤認・知財権に関する無理解からくるものであると広く認識されています」
くらいの感じではまとめられています。
はじめに
『OpenOcean 怪文書 – GPL 誤用による違法行為教唆-』では、「誤用」の説明が不十分に感じたので追補する。
なお、私は、若い頃に一般企業の知的財産業務経験と特許事務所勤務経験があるが、法律関係の有資格者ではない。ただ、精神保健指定医という資格は保有しているので、一般の医師と比較するとある程度は法律の解釈には慣れているでしょうか。
前記事でも述べたが、小林慎治氏の批判の要点は
1. 当方 LICENSE の (C) 表記がフォーク元 dolphin-dev の Kazushi Minagawa から air-h-128k-il に変更なっている
2. 当方リポジトリの LICENSE(GPLv2) と README(GPLv3) とで GPL のバージョンが一致していない
であった。
小林慎治氏の GPL の不適切な適用
恣意的な切り取り方はしたくないので、1 に関する該当する箇所を怪文書から長めに引用しておく。
GPL3では第4条で、以下のように適切な著作権表示をすることを求めています。
4. Conveying Verbatim Copies.
You may convey verbatim copies of the Program’s source code as you receive it, in any medium, provided that you conspicuously and appropriately publish on each copy an appropriate copyright notice; keep intact all notices stating that this License and any non-permissive terms added in accord with section 7 apply to the code; keep intact all notices of the absence of any warranty; and give all recipients a copy of this License along with the Program.
You may charge any price or no price for each copy that you convey, and you may offer support or warranty protection for a fee.
FLOSSプロジェクトでforkしてプロジェクト名称や開発団体が異なっても元の著作権者表示は残ります。どのFLOSSライセンスでも著作権者の適切な表示を求めているからです。
OpenDolphinの原著作者は皆川和史氏であり、戸村(王)勝偉氏が共同著作権者として挙げられています。更に下記の著作権者が協力者としとREADMEに記載されています。
札幌市元町皮ふ科の松村先生
和歌山市増田内科の増田先生
新宿ヒロクリニック
日本RedHat Takayoshi KimuraさんのJBoss as7 へのポーティング
GPL3の appropriate copyright notice” は形式までは具体的に定めていないので、様々な表示形式が見られております。いろいろなやり方があると思いますが、上記はすべて著作権者であり、OpenOceanはOpenDolphinのソースコードの大部分を利用している以上、GPL-HowToに記載されているように上記著作権者をすべて適切に表示する必要があります。
どこにも書いていない「原著作権」を勝手に設定したり、法人として著作権を保有していた LSC 社の言及は全くなかったりと突っ込みどころ満載なのだが、それをここで言い出すとキリがないので、それらは置いておく。ここで問題にしたいのは GPL の条項の適用自体を間違えていることだ。
GPL3(General Public License version 3)は、いわゆる OSS(Open Source Software) ライセンスの一つで、利用規約が section 毎にまとめられている。
本来であれば、著作権者のみが持っている公表権などを、ライセンスの下、著作権者以外にも施行可能にするため、抽象的ながらかなり実務よりの適用条件を想定している。
section4 と section5 の適用間違い
小林氏が挙げた section 4 (第4条)は、冒頭の
You may convey verbatim copies of the Program’s source code as you receive it
(参考訳: あなたは、自分が受領した『プログラム』のソースコードと一字一句同じコピーであれば、いかなる媒体でも伝達することができる)
という表現からわかるように、ソースコードを右から左に伝搬させる際、あるいは当該プログラムの修正などを図りたい第三者が GitHub 上などで最初のコピー(fork などという)を行う場合を主に想定している。
わかりやすく言うならば、「コピーを配布する際には、元の著作権表記は残しておきなさいよ」ということだ。
しかし、OpenOcean やその直接 fork 元の OpenDolphin-2.7m では、単に LSC OpenDolphin のコピーを配布するのではなく、バグを修正する・新機能を実装するなどの積極的な修正を行なっている。
修正したバージョンの公開方法に関しては section4 ではなく section5 で定められている。
5. Conveying Modified Source Versions.
You may convey a work based on the Program, or the modifications to produce it from the Program, in the form of source code under the terms of section 4, provided that you also meet all of these conditions
(参考訳: あなたは、『プログラム』を基にした作品、あるいはそうした作品を『プログラム』から作成するための改変点を、上記第4項の規定に従ってソースコード形式で伝達することができる。ただしその場合、あなたは以下に示す条件のすべてを満たさなければならない)
OpenOcean に関しては、OpenDolphin (2.7m) の modified version なのだから、その公開に関しては section 5 を適用するのが適当なのは明らかだ。
小林慎治氏は、条文の適用を取り違えている。
単にコピーを配布するだけであれば、著作権表記を元ソースから改変するのは、不適切なのは常識的にも明らかで、何も GPL の条文を持ち出す必要もなく、単純に「違反」と言いたいがために、おそらく意図的に section4 のみを持ち出す条文の不適切な適用をしている。
なお、section 5 では、modified version の作者表記の取り扱いは section 4 のように取り扱うことが定められており、よりわかりやすくは FSF の GPL FAQ に以下のように表現されている。
The GPL requires the maker of a version to place his or her name on it, to distinguish it from other versions and to protect the reputations of other maintainers.
(猪股試訳: GPL は、別バージョンの作成者の名前を、他のバージョンと区別するために、かつ、他のメンテナの評判を保護するために、そのバージョンに表記することを要請する)
怪文書の主張とは真逆である。
いちいち GPL の条文を意識したわけではないが、LSC とわれわれの間の話し合いは条文の意図と合致している。
section5 の例外規定
そして section 5 では、ダメ押しのように以下のような例外規定を認めている。
This License gives no permission to license the work in any other way, but it does not invalidate such permission if you have separately received it.
(猪股試訳:本ライセンスは、これ以外のやり方には作品をライセンスする許可を与えないが、あなたが本ライセンスとは別に許可を得ていた場合には、そのような許可を無効とするものではない)
本来の著作者から、表記方法などについて許可を得ているのであれば、それは無効にはならない。
当たり前の話ではないか。
GPL の適切な使用のために
近年は、AI などの技術革新があるためであろうか、医療 IT の世界も活気づいてきた。医師の中にもこの分野で起業する者も多い。
オープンソースソフトウェアを使う機会も増えていると思う。「OSS ライセンスは難しい、とっつきにくい」と敬遠する人も多いだろうが、実際の条文にあたると評判とは異なり、その自然で実務的な特性に気がつかされることが多い。
特殊な事例だとは思うが、この一文が、GPL などの適切な使用のヒントにでもなれば幸いだ。
OpenDolphin-2.7m 開発者
精神保健指定医
猪股弘明
ところで、本小文は、IT 分野に興味を持った医師や医療従事者向けに書いたつもりだったが、記事を公開した旨を X に post したところ、(おそらく医療関係とはまったく無縁な)佐渡秀治という人に repost された。

ここでいう GPL の「誤用」の一つとは section5 と section4 の取り違えだから、その点では正しく文意を汲み取ってくれたようなのだが、「流れは知らんけど・・」あたりには違和感しかない。わざわざ「追補」と断っているのだから、その「流れ」が重要なんだが? fork 元の著作権表示が統一されておらず、しかもそれが著作者の一人とされていた人物の改竄が原因だった、と前記事でさんざん言っていると思うのだが?
fork 元の author とされていた人間が実は剽窃行為を働いていたということはまあまああることなので、その場合、こういう対処がいいという提案ならいいのだが、一般論で返されてもなあ、という感じである。
また、section5 の場合の著作権表記に関しては GPL では具体的な方法は示されていない。示されているのは、個人的な著作物を初めて GPL で公開するわかりやすい場合(section4)のみで、この場合は、例えば (C) author とせよと例示されているにすぎない。(C) マークにしても、よく言われていることだが、日本では著作権法的な裏付けはない。section5 の言わんとすることは、元々の著作権者にさらに著作権者を加えて表示していいよと言っているにすぎない。その具体的な表記方法に関しては何も示されていないし、実際のプロジェクトでも一定したフォーマットにはなっていない。
OpenOcean の場合で言えば、fork 元の著作権表記自体が統一されていなかったので、著作権管理主体に問い合わせてその表記を決めた、条文に則していえば section5 の例外規定が適用された形だ、とかなりはっきり書いているはずだが、まるっきり読めていない。
今はめっきり減ったように思うが、オープンソース界隈には、こういう「評論」が多い。過度な一般化で議論を展開し、最後は「XXX(オープンソースライセンス)違反ですね」で締めるという。ほとんど様式美の世界だ。
まあ、ここでそれを云々するのもあれなので、それは手がすいたときに別記事などで。
